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プロバイダー責任制限法・最高裁判決
2010年4月16日 きたおか法律事務所 | トラックバック(0)
プロバイダー責任制限法に関する最高裁判決が2件出ました。
立法趣旨に忠実な判断でこれまでの実務に変更を促すような判断をしているワケではありません。
ただし、平成22年04月13日判決については、重過失の判断について、判断を迷いがちな事案について判断を示しており、実務上参考になると思われます。
平成21(受)609 発信者情報開示等請求事件
平成22年04月13日 最高裁判所第三小法廷判決
こちらの事件は、インターネット上の電子掲示板にされた書き込みによって権利を侵害されたとして、学校法人の理事長(被上告人)が、掲示板(2ちゃんねる)に書き込みをした者にインターネット接続サービスを提供したプロバイダー(上告人)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)4条1項に基づき、発信者情報の開示と、裁判外において開示請求に応じなかったことにつき重大な過失(同条4項本文)があるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
問題になったのは「なにこのまともなスレ気違いはどうみてもA学長」という掲示板への書き込み
理事長の発信者情報の開示の求めに対し、プロバイダー側は、発信者への意見照会の結果、当該発信者から本件発信者情報の開示に同意しないとの回答があり、本件書き込みによって理事長の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないため、発信者情報の開示には応じられない旨回答。
理事長は、発信者情報の開示と、開示に応じなかったことに重過失があるとして損害賠償を請求。一般的には、相手方に過失があれば損害賠償が認められるのですが、プロバイダー責任制限法は、プロバイダーの地位に鑑み故意又は重過失がある場合にのみ損害賠償責任が発生すると定めており(だから責任制限法)、原審は下記のように重過失を認定して15万円の損害賠償を認めました。
対象となる人を特定することができる状況でその人を「気違い」であると指摘することは、社会生活上許される限度を超えてその相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであり、このことは、特別の専門的知識がなくとも一般の社会常識に照らして容易に判断することができるものであるから、本件書き込みがこのような判断基準に照らして被上告人の権利を侵害するものであることは,本件スレッドの他の書き込みの内容等を検討するまでもなく本件書き込みそれ自体から明らかである。したがって,上告人が被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,重大な過失がある。これに対して、最高裁は以下のような理由で、原審判断は是認できないとしました。
まず、法の趣旨の確認から
以上のような法の定めの趣旨とするところは、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなどの厳格な要件を定めた上で(4条1項)、開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し、上記のような発信者の利益の保護のために、発信者からの意見聴取を義務付け(同条2項)、開示関係役務提供者において,発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されることがないように十分に意を用い,当該開示請求が同条1項各号の要件を満たすか否かを判断させることとしたものである。そして,開示関係役務提供者がこうした法の定めに従い,発信者情報の開示につき慎重な判断をした結果開示請求に応じなかったため、当該開示請求者に損害が生じた場合に、不法行為に関する一般原則に従って開示関係役務提供者に損害賠償責任を負わせるのは適切ではないと考えられることから、同条4項は,その損害賠償責任を制限したのである。次に、規範定立部分
そうすると、開示関係役務提供者は、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し、又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ、損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。として、権利侵害等が一見明白であることが認識できなかったことにつき重過失が必要であると判断しました。「一見明白」ということで、重過失認定をかなり限定的に考えるべきことを明らかにしたと言えるでしょう。ただ、そうは言っても、どのような場合に「一見明白」といえるのかは悩ましいところですが、本事案は、限界事例なのでその点の判断が参考になると思われます。当てはめの部分は以下のとおり。
本件書き込みは、その文言からすると、本件スレッドにおける議論はまともなものであって、異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人であるとの意見ないし感想を、異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し、記述したものと解される。このような記述は、「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ、被上告人の人格的価値に関し、具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく、被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして、本件書き込み中、被上告人を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり、特段の根拠を示すこともなく、本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば、本件書き込みの文言それ自体から、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず、本件スレッドの他の書き込みの内容、本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ、被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。そのような判断は、裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人にとって、必ずしも容易なものではないといわなければならない。もちろん、この最高裁判決の判示事項だけでプロバイダーの悩みがなくなるわけではないでしょうが、かなり参考となる判断だと思います。
そうすると、上告人が、本件書き込みによって被上告人の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないとして、裁判外における被上告人からの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては、上告人に重大な過失があったということはできないというべきである。
もうひとつの最高裁判決は、経由プロバイダーについても「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)に該当するのかについての最高裁判決です。この判決についても、実務上は、経由プロバイダーも含まれることを前提にしていますので、確認的な意味合いが強いです。
平成21(受)1049 発信者情報開示請求事件
平成22年04月08日 最高裁判所第一小法廷判決
文理上も、法の趣旨からも経由プロバイダーが含まれると解釈を展開しています。
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